ハリーポッターと賢者の石
私が映画の話をするなら、まず外せないのはこの映画だろう。
「ハリーポッターと賢者の石」
子供向けのアニメ映画から脱却し、初めて見たのがこの映画だった。
当時はそこそこに読書が好きな子供だった私だが、最高に幸運だったのは母がミーハーだったことだと思う。
インターネットの普及もそこそこだったというのに、原作書が私の目の前に現れたのは映画化の話が持ち上がるより、テレビのニュースで話題になるより早かった。何をどう知ったのかはわからないが、面白いらしいとこの本を見つけてきたのは母だった。
正直な話、この分厚い本を小学生の私に買い与えた母はちょっと何を考えていたのかわからない。いや、確かに児童書なんだけどね。
そして失礼を承知で言うが、この小説、出だしが微塵も面白くない。
もちろん私も一章を読み終わらないうちに表紙を閉じたわけだが、その後読破した母があまりに面白かったというので、苦痛の一章を読みあ上げると、後はもう流れ落ちる滝のごとく一気に読んだ。初めて夜更かしして怒られたのも覚えている。
ともあれ、それが私と「ハリーポッター」の出会いだった。
あまりに本が面白くて、学校の読書の時間にもこの本が読みたいと、ランドセルの半分を占拠するこいつを背中に背負って持って行ったほどすっかりはまってしまっていたのだ。だからそんな私が、映画化すると聞けばもう喜び勇んで映画館へ走ったと想像するのもたやすいだろう。
しかし、実はそんなこともない。
映画を見たのも、母の影響だったのだ。
母は昔から洋画が好きな人だった。(あとで父も洋画がすこぶる好きだと知った)
ところが自営業だった私の家では、ほとんど仕事に休みがないようなもので、店を切り盛りする祖父の手前、映画を見に行きたいとは言い出せなかったらしい。実父なのに。
そこで母は映画を見に行く口実に私を使ったのだ。
「娘が映画を見たがっているから、連れて行ってくるね」
そうくれば、孫可愛さに行って来いと祖父は母を送り出した。
こうして、本があれば満足だった私は良い出汁になったというわけだ。
それが私の初めての洋画体験。
映画は字幕だった。
完全に母の趣味だった。もとより読むのが好きな私には苦ではなかったが、おいちょっと待てよと今なら一言突っ込みたいところだ。
しかしそれよりも何よりも、映画は面白かった。
本で読んだままの物語が綺麗に動いていて驚いたの一言に尽きる。
子供だてらに気に入らなかった部分もあったのだが、それよりなにより、まるで本物のような魔法の世界と、これを作り出せる映画の世界に私はすっかり心酔してしまった。そしてそのあとに見た邦画(なんだったかは忘れた)を見て、その技術の差に愕然とし、すっかり洋画ファンになった。
今にして思えば、母の術中に見事にハマったといったところだろうか。
私の拙い映画人生の始まりとして、外せない映画だと思う。
今ではもう、有名すぎて逆に見たこともない人もいるようなことを聞く。
あれからCG技術も進化して、今見直すとチープなところも多いのかもしれないが、子供に見せる最初の洋画に選んで貰ってもいいのかもしれない。私の母のように。
と、いうわけで、私はこうして映画の世界に踏み入りました。